相続登記の義務化について(2) 過料のタイミング

前回、相続登記が義務化されること、登記を怠ると10万円以下の過料に処される可能性があることを解説しました。
では、実際に過料に処されるまでは、どのような手続きがあるのでしょうか?

過料の端緒(きっかけ)

過料制裁の手続は、「相続登記の申請義務を怠っていることを登記官が知ったとき」に始まります。
「登記官が知る」きっかけはどんなものがあるのでしょうか?
法務省が例示しているきっかけは、つぎのようなものがあります。

  • 遺言書による相続登記をしたが、記載されている不動産の一部しか登記していないとき
  • 遺産分割協議書による相続登記をしたが、記載されている不動産の一部しか登記していないとき

つまり、法務局に提出した書類から、「登記されてない相続不動産がある」と判明したとき、ということになります。
逆に言えば、現段階では、登記記録を片っ端から捜索して、相続登記がされていない不動産を探しだすことはしない、とも読めます。
(そもそも、法務局も業務過多の傾向にありますので、そのような捜索をする余裕はないはずです)

義務違反が見つかったあとの手続

登記官が相続登記義務の違反を見つけたあとは、つぎの2つの書類を発出することになっています。

  • ① 相続人に対して「催告書」
  • ② 裁判所に対して「通知書」

みなさんの手元に届くのは①の催告書です。
催告書の中には、登記申請をすべき不動産の一覧と、登記申請の期限が記載されています。
また、登記申請ができない理由の申告欄も設けられていますので、正当な理由があれば、それを書いて提出することで、過料の制裁を免れることができます(登記義務がなくなるわけではない点に注意)。

①の催告書を無視したり、返事をしなかったり、記載した「正当な理由」が認められない場合は、②の通知書が裁判所に対して発出されます。
裁判所は、②の通知書を受け取った後、「過料決定通知」を送付します。
不服なく過料決定が確定すると、検察庁から過料の支払い方法について通知がありますので、それに従って納付する必要があります。

過料を免れる方法

催告書・通知書が来てしまったら、必ず過料を支払わないといけないのでしょうか?
結論から言うと、一定の場合(正当理由がある場合)は過料に処されない場合があります。

次のような場合は、登記申請をしない「正当理由」として認められます。

  • 相続人が極めて多数で、戸籍関係書類の収集や相続人の把握に多くの時間がかかる場合
  • 遺言の有効性や遺産の範囲などについて相続人間で争いがあり、相続不動産の帰属主体が明らかでない場合
  • 登記義務を負う者が重病などに登記申請ができない場合
  • 登記義務を負う者がDV防止法に規定する被害者等であり、避難を余儀なくされている場合
  • 登記義務を負う者が経済的に困窮しており、登記申請をするための費用を支払えない場合

単に多忙であるとか、登記費用を節約したいといった理由では認められることはないでしょう。
また、これらの理由がある場合は証拠・裏付け資料を添付して催告書へ返答することが必要です。

過料の制裁が心配な方、催告書が届いて困った方は、当事務所までご相談ください。

※ 令和5年9月12日民事927号民事局長通達に基づいて解説しています。
※ 執筆時点(令和5年12月)での取り扱いについて解説しています。

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